4/20/2021

水害死ゼロ目標から堤内治水へ

  我が国の治水事業は戦後素晴らしい成果をあげてきた。洪水での死者・行方不明者数は六十年前の狩野川台風(1958.9)での1,269からその規模を超えた令和元年台風19号(2019.10)では108にまで減っている。堤防、ダムなどの治水施設がこの間に飛躍的に整備されたからだ。

 それでも死者はゼロにはならない。今後さらに治水施設整備の努力が強靱化予算などで鋭意なされるだろうが、人命被害をさらに少なくするには避難などによりそれら損失を最少化することにもかかっている。生命・財産の被害と一括するが、財産被害のほうは「カネさえかければ」被災後に再建回復が可能だ。今後さらに公的な治水施設を整備するに当たってはこの被害回避額(便益)と治水投資額(費用)との比較が必要であるし、経済的損失だけであれば、整備にカネを事前にかけるか復旧費として事後にかけるか(個別損害には水害保険で充当できる)選択できる段階になりつつある。

 その避難で主務を担うのは市町村で、災害対策基本法が根拠法だ。同法にはそれら災害として「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他」とある。水に関連する災害はこれらのうち半数に過ぎないことと、さらには最後の防災手段としての避難は、これら災害のすべてに共通することとして、住民行政を司る市町村の主務となっている。近年の人命被災防止で不備不足を感じるのはこの市町村の体制だ。河川管理部局としては気象庁などと連携して避難に資する情報を適時的確に市町村に提供することが責務だ(水防法に規定)。司司がそれぞれの責務を果たしてこそ日本全体がうまく動く、ということからは市町村責務の分野にまで過剰に介入するのは悪い結果を招くだろう。なお、災害対策基本法は内閣府と消防庁が主管している。それらの官庁での市町村への全般的な指導が待たれる。岡目八目で言うと、それは避難体制運用のデジタル化だろう。

 河川管理部局としては自己の管理するハード施設を人命救助の観点からもさらに改善運用していくこと、これが今後求められるのではないか?


土堤防補強で破堤を防げ

 洪水水位が上昇し耐えきれずに破堤すると、甚大な被害をもたらす。破堤する箇所をすべて予測することは困難で、突然であることがほとんどなので、逃げ遅れた人々の生命は危機に瀕する。その堤防は過去から長年の拡大築造経緯を経ている土の構造物だが、近代的調査手段を駆使してでも内部・基礎地盤の構造弱点を発見のうえ、重点水防箇所に指定し、さらに補強などしていくべきだ。

 一方でこの補強をすれば洪水計画上の水位(計画高水位)を上げることができ、他の例えばダムなどの治水手段は不要になる、とする論がある。この論に水位の余裕確保の考え方は無視されているが、それを仮に捨象して、理屈は合っているかもしれないが、堤防補強が一連区間ですべて完了するには莫大な費用と増して長期間を要するので、それまではその区間の計画水位を上げることができない。だからダムに反対するための理屈にしか見えない。

 遅破壊堤防(工法)というのがあればそれも避難のための時間稼ぎになる。これからは長大延長になった堤防という構造物を如何に改良し管理するかが重点となる時代だ。


堤内地での施設治水

 堤内地が低平地の場合は、避難所も浸水の危険がある。また、避難高台が見つからないか遠い場合も困る。その解決で、河川管理施設である堤防上(スーパー堤防ならなおよし)を避難地に利用する。堤内に残った旧堤は用途廃止せずに、二線堤として破堤時の氾濫拡大防止と避難路として利用。道路管理者と協議して、バイパスなど新設道路を建設する場合、二線堤利用を兼ねさせる(東日本大震災津波では仙台東部道路が期せずしてその役割を担った)。これらが水害に強いまちづくりだ。

 氾濫水を短期間で排除することも不可欠だ。内水河川がその役割を担えるが、その河川にまで排水する水路拡充が必要。また、内水河川から本川に戻す排水機場も危機管理もかねて規模とか配置を決める。

 津波浸水の場合は特別だ。東北地方太平洋沖地震津波(2011.3、貞観地震津波869.7も)クラスの大津波で防波堤計画を超過する津波襲来高さになると、改修済みの海岸堤防であっても、それを越えて浸水被害が想定される。想定外ではなかったが、計画を超過する場合があったと理解したい。そのときには避難だけが人命救助の策となる。この場合にも堤防が転倒などして一気に破壊しない構造が求められる。津波からの避難は、地震発生から若干時分の余裕が見込めるが、問題なのは身障者、高齢者などの避難弱者だ。もし浸水予想地区に住むなら、高層ビルの高層階に住居を確保する必要がある。日常生活にはエレベーターなどの設備が必要だ。地方都市であっても、そのような高層建築を推奨する地区計画が求められる。

 以上、避難インフラの整備がこれからは公的な責務の主たるものになるだろう。


 最後にそもそも論だが、浸水危険地域に住まないことだ。都市計画法(施行令、通達)に「溢水、湛水、津波、高潮等による災害の発生のおそれのある土地の区域」は市街化を図るべき土地に含めない、とある。各種都市施設(道路、駅など)の開発に伴い新規に市街化区域を定める場合でも治水上の観点からも厳格なチェックが必要だろう。

 さらに言えば、「治水機能」は河川法の河川構造物だけに必要なものではない。この都市計画法、あるいは都市に配置される道路、公園、さらには建築物にまで「治水の配慮」が必要だ。公共物設置には「環境上の配慮」(緑化なども)、「耐震の配慮」(耐震設計)が必要なのと同様だ。

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